2017年12月3日 作り手と探す もののあはれ

トクベツな器でトクベツな和菓子を食べる!!6000℃的インスタレーションアート

「作り手と探す もののあはれ」をテーマに、2017年 12月 3日(日)に高松市美術館カフェcafe de Mokuにて開催いたしました。

『石』『木』『染』の 美しい器たち…

『石』『木』『染』それぞれの素材の職人と、日本伝統の『和菓子』職人とのセッションによって生まれた4種の器と菓子から、もののあはれを感じてみましょうというイベントでした。

みんな学んだはずなのに、今一つつかみどころのない“もののあはれ”という感覚の謎を、職人の仕事から解明してもらうという試みです。

 

美しく神秘的でどこか儚げな器たち… 日本人の根幹にある美意識が顕在されたように感じました。(撮影:サン・スタジオ 鍋坂樹伸さん)

一緒にいてくれることへの感謝

一緒の時間を楽しむということはかけがえのないことです。

同じ場所で同じ時を過ごすことは、ご縁がなければなしえない特別なこと。

足を運んでくださったお客様に感謝。これからたった一時間ですが同じ時を過ごしましょう。

オオクボエンタープライズの大久保さんからお借りした温石。まずは温かな石で、お客様に手を温めて頂きたいと思って準備しました。

石は保温性があり、しばらくの間温かさを楽しめます。温かく適度な重量のある石には安心感があります。


染の器もスタンバイ。何を包み込んでいるのでしょう。

お湯呑は朋花窯の平岡さんの作品。さぬきの土は優しい青色の釉薬にかわります。

6000℃のもてなしサイドの目印に、お揃いの花のコサージュを用意しました。


左側から、石の大川弘展さんと、木の井上理輝さん。

左側から、木の石田剛志さんと、染の大川原誠人さん。

左側から、お茶の西森丈士さんと、良き相談者でメンバーの真鍋有紀子さん、久保勇人さん。


石の器 「あはれ(庵破麗)」

最初の器は石。菓子は干し柿を使った和菓子です。

石は地球。人の時間をはるかに超えた存在。

力強く偉大なのに、脆くて繊細。豊かで深い美しさを持っています。

私たちは、石から何を感じとっているのでしょう。

 

石の器「あはれ(庵破麗)」:グレー系の庵治石と、錆石を使っています。

大川さん曰く「精度の高い製品を作るようになるにつれ、逆に自然にしか作ることのできない玉石の美しさのすごさを感じます。人間には作ることのできない美しさです。」

今回の石の器は、その自然にしか作ることのできない石表面の美しさを活かしています。和菓子をのせる部分は水磨きで仕上げていますが、この水磨きという仕上げの肌触りは人肌のような滑らかさと柔らかさを持っています。

器名「あはれ(庵破麗)」の意味:庵は庵治石を表します。破るは石の亀裂にそって破った表面『カサネ肌』の意味し、そのカサネ肌が麗しく美しいことから麗の字を最後に宛てました。

菓子:里の菓子

干し柿の中に白餡が入っています。石に倣い、自然の甘味と造形美を感じてもらうための菓子です。

石の肌そのものと、優しい肌触りの水磨きの肌。干し柿の菓子は、雪をいただいた山のようです。

カサネ肌の人には作れない自然の表情は印象的です。

器と菓子は出会うことでより引き立ちます。

石の説明をする大川石材の大川さん。今回の取り組みは新鮮だったとおっしゃってくれました。


石の器と和菓子に向き合ってくれました。正面の決まりはないので、色んな角度から楽しめます。

自然を触覚でも感じつつ菓子を食べていただくために、あえて手を使ってもらいました。

菓子とお茶。器同様、お互いに引き立て合う関係だと思います。


西森園の西森さん。里の菓子を食べたうえで、最も合いそうなお茶を選んでくれました。

石を真剣に感じてくださっています。こんな風に素材に向き合う時間は貴重ではないでしょうか。

石の器の名前や、作り手の思いをつづったシートをお渡ししました。


木の器 「あはれ(丫余柃)」と「あはれ(杏環嶺)」

次の器は木。菓子は道明寺です。

木は生きています。そして、私たちは木に寄り添って生きています。

木に宿る命の個性を受け入れて、それを生かすとき、新しい美しさが生まれます。

木は太古の昔から、私たちに多くのことを教えてくれます。

 

木の器「あはれ(丫余柃)」:香川県産の杉を使っています。

木に切れ込みを入れ、自然に生まれる反りを活かして器にしています。木目もはっきりと見え、木の存在感が現れています。

木の器「あはれ(杏環嶺)」:国産の楢と桜を使っています。小さな木片をひもで縛って器にしています。水に浸すことで木片同士が結びつき完成します。

今回の木の器は、どちらも木が生き物であると感じさせてくれます。

人は木を従わせようとしていますが、木の特性を生かすことで新しく美しいフォルムが生まれると思います。

器名「あはれ(丫余柃)」の意味:丫は二股に分かれることを表します。柃は神さまに供える木の名前。頂きものである米の菓子を捧げもつことに適しています。

器名「あはれ(杏環嶺)」の意味:杏は木の名前。そして実のなる木を表します。環は小さなものが集まって環を作るという、この器自体の形状を意味します。

菓子:田の菓子

道明寺。稲作と木は季節を知るため、そして桜の木は豊作の神さまが宿るとも言われます。もち米を使った道明寺を木の器に盛ることは神さまへの感謝が表れているように感じます。また、餡に使う小豆には魔除けの効果があると言われています。

 

木に生まれる反りを生かした器です。和菓子が神聖に見えます。

器の説明をする井上製作所の井上さん。木が生きているということを意識されています。

槇塚鉄工所の槇塚さんが用意してくれた鉄のお箸です。鉄の質量と質感がずっしりと伝わります。


小さな木片は可愛らしいです。小ぶりな道明寺との相性も絶妙です。

木の話をするカトミの石田さん。遊び心ある器を作ってくれました。

抹茶と碾茶の間のようなお茶。市場では買えないお茶だとか…


木と水の力で結びつく器。実は乾くとバラバラになってしまうのです。

木の器をじっくり観察してくれています。角度によって見えるものが異なります。

作り手の木への思いが形になります。メッセージと共に器を感じてもらいます。


染の器 「あはれ(藍和礼)」

最後の器は染の器。菓子はおいりと麩焼き煎餅です。

市松模様が染め抜かれた、ふわりと柔らかく軽やかな麻の布。

発展していく美意識を感じる染物。

模様には縁起、物語、祈りが込められています。

 

染の器「あはれ(藍和礼)」:生平麻にのり染。藍で市松模様を染めています。

大川原さんにとって、染物の風呂敷やバッグなどを作った経験はあるけれど、染物の器を作るのは初めてだそうです。

表面を中にして未開紅の姿で出されます。器を揺すると、中に入ったおいりがカラカラと軽やかな音を立てます。

薄い布の生地を通して器の中の菓子の存在が手に伝わります。

器を綴じた糸を切ることで、はらりと開き、エッジの利いた藍の市松模様とそこに転がるカラフルな丸いおいりが現れます。

器名「あはれ(藍和礼)」の意味:藍は藍で染めていることを表します。また、藍は護身の色でもあります。和は日本。礼は日本人が大切にしている礼節や感謝を意味しています。

菓子:おいり / 麩焼き煎餅

おいりは嫁入りの時に配る縁起の良い菓子です。後から配られる麩焼き煎餅には丸をつかって、花、雪、星、波を象徴的に描いています。

 

閉じた状態の器はほおずきみたいな可愛らしい姿をしています。

大川原染色本舗の大川原さんによる器の開き方の説明。

感触や音を感じてくれています。器を揺するという行為はきっと初めてだと思います。


器を綴じている糸を切ります。切った糸は戻りません。後戻りのできない切なさも感じます。

おいりの数は15。15は日本人にとって大切な数字です。二十四節気、鬼宿日、成人式に七五三など…。

丸い麩焼き煎餅に、和三盆で描いた丸で表現された日本の美しい風景です。


市松模様に、淡い色の丸い菓子が映えます。封に使った和紙の持ち手は金銀を塗ってあり、栞に使えます。

染物のお話。伝統を日常的に守り、今につないでくれているのは職人さんだと感じました。

力を入れると潰れてしまうおいりと柔らかな器。優しく触れるということを教えてくれます。


このイベントの最後に。

ご参加いただいたお客様にアンケートをお願いしました。

ぞれぞれの器から何を感じていただいたのか、イベント全体で何を受け取っていただいたのか…

次回に活かしていこうと思っています。

無事に終了。同じ空間にいる人たちへ、言葉にしきれない感謝があります。

大久保さんからお客様へのお土産にといただいた、温石型の和三盆糖。

丁寧にアンケートに答えてくださいました。芸術を感じたという方が最も多く、嬉しいところです。


おまけ

準備風景を含めて裏側を少しだけ。

頼もしく、もったいない人たちの協力のおかげで、無事にイベントを終えることができました。あらためて感謝します。